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そうだな、旦那に名を呼ばれたら今回のように衝動的に動くだろうな。俺にとっては殺し文句に近い言葉だ。 ……まあ、好きになるのは、無理だな。それなら人間相手に痛めつけられる方がマシだ。終わりがわかりやすい。 いいと思う。すごくいいと思う。俺もあんたを口説きながら俺を焚きつけてくるような、豪快なおっさんを出したいと画策してる。流浪人めいているのに金と威厳のある、どこぞのお忍びの人間とかな。 ──── (自身が動いてすぐに寝返りを打った相手に起こしてしまったかと逃走のために足を踏み出しかけるが、そのまま動きを止めたのを見て細く息を吐き、また庇代わりを勤め。見えなくなった顔を残念に思いながら自身より細い背と流れる美しい黒髪を見つめていたが、相手の唇から溢れた己の名と同じ音に息を飲み、何故その呟きが生まれたのか理解せぬまま顔を見たいという欲求の元、衝動的に手を伸ばしかけ) 、……うきょ……。 (漏れかけた名と身体を押し留めたのは、微かに響いた軽く小さな足音。しゃなりと歩く女郎でも、足音を気にせぬ男衆でもない、おそらくは売られてきたばかりで躾のされていない禿のものであるそれに、身を売る女から生まれ落ちながら同じ境遇の女共を食い物にする自身と相手の業と、彼とは違い彼女達を癒すことも手助けすることも出来ない自分との隔たりを思い出し、伸ばしかけた手を血が滲むほどに握り締めて、すぐさま踵を返し一度も振り向かないままその場を静かに離れ)

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